学芸員自然と歴史のたより「今年は相模湾の沿岸でアユが急増!?」

2018.05.30

 日本の夏の風物の一つに「アユ」があります。

 アユ(学名:Plecoglossus altivelis altivelis)は本州、四国、九州と北海道の一部、朝鮮半島に分布するアユ科の魚で、成長にともなって川と海と行き来する「両側回遊魚(りょうそくかいゆうぎょ)」として知られています。アユは晩秋に川で産卵し、生まれた稚魚は川を下って海で生活し、翌年の3月前後から川を上り始めます。また、同じように川と海を行き来するサケとは違って、必ずしも生まれた川に上るわけではないため、繁殖が確認されていないような小さな河川にもよく上ってきます。ここで気をつけたいのは、アユは川に上ってくるまで採集することが法律で禁止されている魚だということです。海のアユは、他の魚では許されているようなタモ網ですくったり釣り上げるといったことも違法行為となってしまいます。

 

シラスに混じって漁獲されたアユの稚魚

 

 このアユが今年、相模川を上る若魚の個体数が過去20年で最も多く、昨年の2倍以上となっていることが報道されました(5月2日神奈川新聞)。横須賀市の相模湾岸でもアユの若魚の数は例年より多いようで、毎年多数のアユが観察される秋谷の前田川をはじめ、例年はアユの数が多くない長坂の松越川や長井の川間川などでも4月頃から全長3~5cmのアユの稚魚が群れているようすが観察されています。

 これらのアユはこの後、どのようなくらしをするのでしょうか。

 相模川のように大規模な河川では、稚魚期に動物プランクトンを食べていたアユは、上・中流域の瀬に縄張りをつくって石についたコケ(珪藻類)を食べる植物食に食性を変え、全長20cmを超える大きさに成長し、その年の秋には産卵を終えて寿命を迎えます。しかし、横須賀市の相模湾岸に見られるような小規模な河川では、縄張りをつくって大きく成長できるものはごく一部で、ほとんどの個体は動物食のまま全長10cm程度までしか成長せず、産卵をしないで生涯を閉じます。そのため横須賀生まれのアユはごくまれにしかあらわれず、ほとんどは他の地域の大規模河川で生まれたアユなのです。

 

石についたコケを食べるアユ

 

前田川で採集された全長20 cmを超えるアユ

 

 アユと時期を同じくして海から川に上ってくる魚にボラがあります。慣れないと見分けにくいかもしれませんが、アユが細身で体を全体にくねらせるように泳ぐのに対して、ボラは体が太短くて頭が大きく見え、体をくねらせるというより尾ビレと胸ビレを活発に動かしながら泳ぐので区別できます。

 

川を上るボラの幼魚

 

 今年は横須賀市内の川でアユの姿を観察する良いチャンスかもしれません。散歩や買い物のついでにでも、お近くの川をのぞいてみてはいかがでしょう?(海洋生物学担当 萩原)

 

「学芸員自然と歴史のたより」はメールマガジンでも配信しています。