学芸員自然と歴史のたより「「基本昆虫種」から身近な昆虫を調べよう!」
生物多様性の例にも取り上げられることの多い昆虫類は、地球上に200万種以上がいると言われるくらい、多くの種を擁しています。私たちのくらす日本国内では約3万種、神奈川県では2004年の時点で約1万種が見つかっています。当博物館のフィールドである三浦半島地域には絶滅種も含めて約4,000種が記録されています。北半球の条件の良い場所で望遠鏡なしに確認できる星の数(一説には、約4,300個)に匹敵しますね。
身近な昆虫をすべて把握しようと思ったら、三浦半島では前述の約4,000種を端から調べればよいのですが、それはなかなか難しいものです。ふつうは好きな虫から調べはじめるので、チョウ、トンボ、クワガタムシなど、一部のグループに絞った中で分類できる種数を増やしていくことになります。同好会やSNSなどを通じて、自分と同じ昆虫に興味をもつ仲間が見つけられれば、より効率的に把握できる種数が増えることでしょう。
ところで、私は博物館の講座で昆虫について教えたり、昆虫を研究する同好会と一緒に活動したりしていて、昆虫を調べることについて様々な「つぶやき」に接してきました。例えば、これから昆虫を調べようと思っている方からの、「何から調べたらいいのか分からない」とのつぶやきや、同好会でチョウを調べている方からの、「あの人はハチやカブトムシが専門だからチョウの話題には加えなくていいよね」とのつぶやきです。こうしたつぶやきに接しているうちに考えたのが、「身近な昆虫の中から分類グループの垣根を越えて『基本』となる種をいくつか取り上げること」で、何から調べたらいいか分からない方にはおススメとして、分類グループの垣根ができてしまっている方々には共通の話題として、まとめて対応できないかということでした。身近に見ることができる(かもしれない)昆虫種を「基本昆虫種」として、既知種数の1割ちょっとの約500種と仮定しましたが、それでも多かったので、少し前に小学生が数え歌で150種ものアニメのキャラクターを軽々と覚えていたことに可能性を感じ、100種をコアとなる基本種として選定しました。
選定にあたっては、① 身近に観察できる(≒ 私の三浦半島各地における昆虫調査で目にする機会が多い)こと、② 昆虫の様々な分類群から抽出すること(こうした選定ではあまり取り上げられないイシノミ類やゴキブリ類なども加えました)、③ 各分類群の種数の多さ(≒ 多様性の高さ)を抽出数に反映させること、を基準としました。2014年にはポスター*を制作し、地域の多様な昆虫相を、具体的な100種の身近な昆虫によって紹介する試みを行いました(全国科学博物館活動等助成事業[平成26年度]による。写真参照)。この試みではまた、横須賀市の交流都市である会津若松市でも同じ基準で100種を選定して比較を行いましたが、2つの地域の間で異なる種が多く見られ、地域間の自然環境の違いを浮き彫りにできる可能性を感じました。
2018年7月28日から11月4日まで開催している特別展示「探検!スズメバチと身近な昆虫の世界」では、先ほど述べた三浦半島の基本昆虫種500種を目指して選定した昆虫たちを展示しました。いずれもコアとなる100種に関連させて選定したものです。身近な昆虫を100種、400種...と広げて調べていけば、きっと地域の昆虫を広く理解できるだけでなく、様々な昆虫を調べる方との共通の話題が生まれることでしょう。(昆虫・陸上無脊椎動物担当:内舩)
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