学芸員自然と歴史のたより「イカした色ですが、なにか?」

2018.10.30

 突然ですが、漁師さんはカラフルな色使いをするでしょうか?漁に出るときにオシャレな格好をする漁師さんはいないと思いますが、道具の色使いに神経を使う時があったようです。今日ご紹介するのは、イカ釣りに使ったイカヅノです。  現在使われている(市販されている)イカヅノは、ピンクや黄緑色のプラスチック製のものが多いようですが、三浦半島で30年くらい前まで使われていたイカヅノは芯となる部分が鉛や竹で出来ています。そして、その鉛や竹の部分にカラフルなガス糸を巻きつけ、10個程度のイカヅノを一本の糸で約5尺間隔につなぎます。その色使いが漁師さんの腕の見せ所で、一個ずつ色を変えたり、一個のイカヅノに2、3色の糸をしま模様に巻きつけたりします。実は、カラフルな色使いをしているイカヅノは、他の地域ではあまり見られません。イカヅノ自体の形状がもっと太かったり、糸が巻いてあっても単色の木綿糸だったりする地域が多かったようです。

スルメイカ漁のイカヅノ(竹の芯)

 

スルメイカ漁のイカヅノ(鉛の芯)

 

 カラフルなイカヅノが三浦半島の特徴といえますが、糸を巻きつける道具(ツノマキ)も他の地域ではあまり見られないものです。昭和年代以前は、手で糸を巻くか木製の歯車を使用したツノマキでイカヅノを回転させ糸を巻きつけていましたが、だんだんと置時計の部品である歯車を利用したツノマキが普及していったようです。以上のことからわかるのは、自分なりの工夫によって細かい色使いを決めていたこととツノマキが必要なほどイカヅノに糸を巻く作業が多かったことです。

ツノマキ

木製歯車のツノマキ

 

三浦半島のイカヅノが、他地域で同時期に見られるイカヅノよりも細身であるのは、巻き上げ機を使わず手釣りだったことも理由として考えられます。イカヅノの束をヒトカラと呼びますが、それを手で引き揚げていました。手早く作業をするために、片手にほぼすべてのイカヅノを収めながら次から次へと引き上げます。細身でないと手に収まらないのです。その様子を陸上で再現した映像やツノマキで糸を巻いている映像、イカヅノの実物は天神島ビジターセンター2階の展示室で見ることができます。また、来年春には本館でもそれらの映像やイカヅノのカラー写真を館内設置のパソコンで見られるようになります。(民俗学担当:瀬川)

 

イカヅノを片手に収める

 

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