学芸員自然と歴史のたより「冬の魚「鮗(このしろ)」」

2019.02.01

 魚偏に冬と書いて「コノシロ」と読みます。

 コノシロKonosirus punctatus (Temminck et Schlegel, 1846) は江戸時代の末期に長崎出島のオランダ商館のドイツ人医師であったフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトがオランダのライデン博物館に持ち込んだ標本をもとに、1846年、当時のライデン博物館館長のコンラート・ヤコブ・テミンクと同博物館の動物部長だったヘルマン・シュレーゲルによって新種として発表された魚で、プランクトンを食べ、北海道南部~九州南部の内湾や河口域などで大量に漁獲される魚です。

 日本では古くは「都奈之(つなし)」と呼ばれ、万葉集の中で大伴家持が長歌の中でその名を歌い、富山県氷見市には「つなしとる ひみのえすぎて」という大伴家持の歌碑が立てられています。

 「つなし」という名は現在でも東海地方より西の地域で、おもに小型・中型の個体に対して地方名として残っていますが、そのほかに30近い地方名(方言)があることから、各地で昔から親しまれていた魚であったと考えられます。

 また、コノシロは成長にともなって呼び名が変わる「出世魚」としても有名で、関東地方では体長4~5cmのものを「シンコ」、6~10cmのものを「コハダ」、15cm前後のものを「ナカズミ」、約17cmを超えると「コノシロ」と呼びます。

 コノシロは小骨が多いことから小型のものの方がおいしいとされ、江戸前寿司では定番の「光もの」の寿司ネタとしてシンコやコハダが用いられます。ナカズミやコノシロのサイズになると味はよくても骨が硬くなって食べにくくなるため、あまり好まれなくなってしまいます。

 旬の時期はというと、シンコは初夏~初秋、コハダは秋~初冬、コノシロは春の産卵期以外はいつでもおいしいのですが、やはり鮗だけあって冬がおすすめです。

 横須賀市の周辺では、東京湾の底引き網や刺し網でたくさん漁獲されるほか、平作川の下流~河口では春~初夏に橋の上から群れで泳ぐ姿が見られることがあります。(海洋生物担当:萩原)

 

コノシロ(神奈川県立生命の星・地球博物館提供:瀬能 宏撮影)

 

体長4cmのコノシロ幼魚(シンコ)

 

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