学芸員自然と歴史のたより「葉山層群と断層」

2020.07.30

 ブラタモリ「 葉山~“憧れの葉山”はどうできた?~」(2020年7月11日(土)午後7:30~午後8:15 NHK総合で放送)で,葉山町の地層「葉山層群」と断層について解説しました。ここでは葉山層群についてもう少し詳しくご紹介したいと思います。

 葉山層群は三浦半島の中部,葉山町~横須賀市衣笠周辺と,横須賀市秋谷~武山周辺に分布しています(図1)。海底で堆積した泥岩や砂岩,礫岩からなり,これらの岩石は三浦半島のほかの地層の岩石よりも緻密で固い特徴があります(図2)。微化石である放散虫化石や石灰質ナノ化石の研究から,約1,800万年前,または約1,500万年前につくられた地層であることがわかっていて,三浦半島では最も古い地層です。地層のズレである断層がたくさん見られ,地層が大きく変形したり,同じ地層が繰り返したりしていることが特徴です。このような地層の変形の様子などから,葉山層群はプレートが沈み込むときにつくられた付加体(図3)であると考えられています。また,葉山層群が分布する地域には,三浦枕状溶岩のような玄武岩(図4)や,蛇紋岩などの火成岩類が点在しています。これらの火成岩類は,かつての海洋プレートの断片であるオフィオライトと考えられています。これらの火成岩類は断層に沿って葉山層群に入り込んできたようです。葉山町や横須賀市では,火成岩類が見られるところは低地となっています。火成岩類が入り込んできた地層は,断層によってすりつぶされて周囲の地層よりも弱くなり,流水によって削られ,低地になったと考えられます(図5)。葉山町から横須賀市に続く道は,この断層由来と考えられます。

図1 葉山層群の分布.

 

図2 葉山層群森戸層.葉山町森戸磯.砂岩と泥岩の互層からなる.断層がある場所は削られて凹んでいることがわかる.

図3 模式的な付加体の断面.海洋プレートは海溝で大陸プレートと衝突し,地球の内部に沈み込む.沈み込めなかったプレートの断片やプレート上に堆積した地層の一部が,大陸にこすりつけられてできた地質体を付加体と呼ぶ.

図4 三浦枕状溶岩.横須賀市平作.海洋プレートの断片と考えられている.

 

図5 葉山町の地形と推定される断層.断層の位置は『渡部ほか (1968) 神奈川県葉山地域の地質(1万分の1地質図説明書)』を参考とした.

 

 葉山層群の地層は固く,断層によって崩れやすいところもあることから,かつてはトンネルを掘るのが難しかったと考えられます。一方,横須賀市,逗子市,鎌倉市に広く分布する三浦層群逗子層は,葉山層群よりもやわらかいこと,断層が少ないこと,急な崖や谷戸をつくりやすいことが特徴です。横須賀市にトンネルが多いのは,葉山町よりもトンネルを掘りやすい地層があったためと考えられます。このように,人の暮らしと地形・地質には,密接な関係があることがわかります。

 ブラタモリで使用した砂岩とハンマーは,博物館本館2階「深海から生まれた三浦半島」にて11月8日(日)まで展示中です。(地球科学担当:柴田)

    もっと詳しく知りたい方は 高橋直樹・柴田健一郎・平田大二・新井田秀一 2016. 葉山-嶺岡帯トラバース. 地質学雑誌, 122(8): 375-395.   「学芸員自然と歴史のたより」はメールマガジンでも配信しています。