学芸員自然と歴史のたより「最近みつけためずらしい昆虫たち」
2020.09.30
博物館では横須賀市を含む三浦半島地域をフィールドとしています。学芸員はそれぞれの担当分野の中で地域についての様々な資料を収集・研究しています。今回のコラムでは昆虫分野でここ数年の間に確認された、めずらしい(めずらしかった)昆虫たちをいくつか紹介します。
【ウルシゴキブリ】
見た目は家屋害虫のクロゴキブリにそっくりなのですが、屋外性のゴキブリです。クロゴキブリよりも体長も翅も短く、全体的に丸みを帯び、黒色が濃いことで区別できます。三浦半島南部、三浦市沿岸部の樹林付近で2018年に見つかりました。本来の分布域は九州の島しょ部以南とされており、本来の生息地から流木によって運ばれたのか、鉢植えなどによって運ばれたのか、詳しいことは分かっていません。発見翌年には同所の樹林地内にコロニーを確認したことから、少なくとも三浦半島でも局所的に定着している可能性が高いです。
図1「ウルシゴキブリのメス」
【ヨツモンカメノコハムシ】 平べったい円盤状の黄色い体に4つの黒点が目立ちます。ハムシ(葉虫)、つまり葉を食べる甲虫の仲間です。もともと沖縄以南に分布していましたが、2000年以降、九州、四国、東海地方などへ分布を広げました。三浦半島では2016年秋に横須賀市西部で初めて確認された「めずらしい」昆虫でしたが、その後急速に市内各地で見られるようになり、2020年夏の時点では既に「めずらしかった」昆虫になりつつあります。本種はヒルガオ科の葉を好んで食べます。三浦半島では、菜園のサツマイモや野生化したノアサガオなどヒルガオ科の園芸作物で見られることが多いようです。図2「ヨツモンカメノコハムシとノアサガオにできた食痕」
【キマダラカメムシ】 やや大型のカメムシで、黒っぽい体に黄色い点や帯がちりばめられています。一見、普通に見られるクサギカメムシにも似ていますが、本種はふた回り近く大きく、足の黄帯が目立ちます。もともと九州以南の分布をしていましたが、2000年代には関西地方に分布を拡大、2010年代には関東地方南部でも発見が相次いでいます。三浦半島では2015年の葉山町に続いて2017年には横須賀市でも発見されました。前述のヨツモンカメノコハムシのように爆発的に分布拡大している様子はなく、2020年夏までに三浦半島では続報がありません。図3「ケヤキの幹にとまるキマダラカメムシ」
【ニセモンキマメゲンゴロウ】 体長6~8 mm程度の小さなゲンゴロウの仲間です。名前のとおり近縁種モンキマメゲンゴロウによく似ています。モンキマメゲンゴロウは、国内では各地の清流のよどみなどに生息する普通種である一方、ニセモンキマメゲンゴロウはこれまで北海道と東北地方しか生息が確認されていませんでした。2018年、三浦半島北部の鎌倉市で、モンキマメゲンゴロウと混生するニセモンキマメゲンゴロウが発見されました。この発見により、関東地方をはじめとする国内各地でニセモンキマメゲンゴロウの新産地発見の続報が期待されることとなりました。なお、博物館では2020年6月から、本館「めずらしい標本」コーナーの近くに、これら2種のゲンゴロウの標本を展示しています。ぜひご覧ください。図4「本館「珍しい標本」コーナー手前の展示」
上記で紹介した昆虫たちの記録は、三浦半島昆虫研究会の会誌『かまくらちょう』や当博物館の研究報告に掲載されています。以下に出典を記しますので、詳しく知りたい方はご参照ください。(昆虫担当:内舩) 内舩俊樹・赤池宣介 2017 葉山町でキマダラカメムシを採集. かまくらちょう, (92): 9. 内舩俊樹・永嶋省吾 2019 三浦市でウルシゴキブリを採集. かまくらちょう, (95): 3-4. 宮原宗久・内舩俊樹 2019 ヨツモンカメノコハムシを横須賀市で採集. かまくらちょう, (95): 5-6. 内舩俊樹 2019 横須賀市でキマダラカメムシを採集. かまくらちょう, (95): 25-26. 藤原大貴・内舩俊樹・大澤啓志 2020 三浦半島から採集されたニセモンキマメゲンゴロウ(甲虫目:ゲンゴロウ科). 横須賀市博研報 (自然), (67): 33-35. 「学芸員自然と歴史のたより」はメールマガジンでも配信しています。