学芸員自然と歴史のたより「「新しい生活様式」は初めてですか?」
今年も残り2ヶ月、いろんなことがあったというか、なかったというか…。新型コロナウイルスによって、私たちの生活は一変しました。感染拡大防止のため「新しい生活様式」が唱えられて、半年が経ちます。
みなさんは、「新しい生活様式」には慣れたでしょうか?少なくとも手洗い・手指消毒の徹底、マスクの着用は生活する上で必須のこととなりました。会計待ちなどで並ぶのも間隔を保ち、テレワークや時差出勤の推奨、オンライン会議の普及、大規模イベントの人数制限など、私たちの生活は新しいものへと変わっています。
ではみなさん、あらためて「新しい生活様式」は初めてですか?もちろん、スマートフォンの普及に集約される情報通信技術の発展、飛行機や新幹線などの高速移動手段の一般化など、科学技術の進歩も私たちの生活を大きく変えました。
しかし、それだけではありません。明治時代以降、国の施策等により生活が変わった(変えようとした)ことが過去にもあります。特に戦後、主に農漁村向けに行われた生活改善運動、全国に向けた新生活運動は現在の私たちの生活では当たり前になっている事柄を広めました。それら運動の詳細について触れるのはまたの機会として、具体例をあげてみましょう。
電車・バスへの整列乗車、水回りの衛生管理・台所の改良、家計簿の作成、パン食の普及、地域でのスポーツ活動、時間励行などです。今では当たり前になっていることが、昭和30年代に全国的に唱えられ実践されたことなのです。ただし、定着しなかった(一部地域を除く)こともあります。虚礼廃止(豪華な結婚式をやめて公民館結婚式、結納の廃止、高額な香典と香典返し)、祭り・年中行事・年祝い(3月・5月節供、七五三)の簡素化、門松の廃止などです。
個々の事情は違いますが、国からの施策で「新しい生活様式」が提唱されたことは以前にもあったのです。もちろん、今回の新型コロナウイルス感染拡大防止のための「新しい生活様式」は、発する側も受け取る側も過去とは比べものにならないほど切迫したものです。民俗学では、生活に変化をもたらした事柄やその経緯をテーマにします。と同時に、生活改善運動や新生活運動で提唱されながらなぜ定着しなかったのか、ということも扱います。
数年後、今回の「新しい生活様式」で提唱されたことのなかで、どれが定着しているのかは大変興味深いところです。個人的にはやはり、オンライン上の会食よりも対面での会食のほうが楽しく感じます。新型コロナウイルス対策が万全となった後、どのような生活様式になっていくのかを考えるため、一部の博物館では新型コロナウイルス関連の資料収集をはじめています。当館でも、新聞記事はもちろん、出前やテイクアウトをはじめました!というチラシを少しずつですが集めています。(民俗学担当:瀬川)
「学芸員自然と歴史のたより」はメールマガジンでも配信しています。