写真からつくる足跡化石3-Dモデル【学芸員自然と歴史のたより】
いろいろな方向から撮影された写真をもとに,撮影物の3-Dモデルをつくる方法をフォトグラメトリーといいます。ここでは,フォトグラメトリーの方法と,フォトグラメトリーでつくった恐竜の足跡化石標本についてご紹介します。
まず,さまざまな方向から標本を撮影します。デジタル一眼レフカメラが望ましいですが,コンパクトデジタルカメラやスマートフォンでも問題ありません。標本の周辺にスケールや目印となる物を置く,標本を回転させたり動かしたりしない,写真の範囲が重なるように撮影する,などがポイントです。パソコンのソフトフェアが各写真のカメラ位置を解析しやすくなります。写真の数が多いほど精密な3Dモデルがつくられますが,ここでは50枚程度の写真で3-Dモデルをつくりました。
撮影した写真から, パソコン上で3-Dモデルをつくります。ここではAgisoft Metashape Professional v1.5.4を使用しました。写真をソフトウェアに読み込み,各写真のカメラ位置を解析させます(図1)。ここで3-D点群(ポイントクラウド)が生成され,さらに3-Dモデルがつくられます(図2)。完成した3-Dモデルからは,カラーで立体的な形状がわかりやすい深度マップや,歪の無い写真であるオルソモザイク画像をつくることもできます(図3)。
図1.解析されたカメラ位置と生成された3-D点群(ポイントクラウド).
標本は肉食恐竜の足跡化石アジアノポダス.
図2.アジアノポダスの3-Dモデル.
図3.アジアノポダスのオルソモザイク画像 (A),深度マップ (B),スケッチ (C).
IIは第2指(人間の足の人指し指に相当),IIIは第3指(中指に相当),IVは第第4指(薬指に相当)を表します.
足跡化石には足裏の皮膚のようすが残されているものがあります。フォトグラメトリーによって,植物食恐竜である鳥脚類の皮膚の様子も復元できました(図4)。また,1個の足跡化石だけでなく,2個以上連続した足跡である歩行跡でも3-Dモデルをつくることができます(図5)。このようにしてつくられた3-Dモデルや3-D画像は,足跡化石のかたちを客観的に記録したり,博物館で展示したりするときに役立ちます。
図4.皮膚の跡がある鳥脚類の足跡カリリクニウムのオルソモザイク画像 (A),深度マップ (B),スケッチ (C),ならびに拡大した皮膚の跡のオルソモザイク画像 (E) と深度マップ (E).
IIは第2指,IIIは第3指,IVは第第4指を表します.
図5.カリリクニウムの歩行跡のオルソモザイク画像 (A),深度マップ (B),スケッチ (C).
RP: 右後足,LP: 左後足,RM: 右前足,LM: 左前足.
ここでご紹介した足跡化石標本は,特別展示「足跡化石から探る太古の世界」(2021年12月26日まで)で展示中です。3-Dモデルを活用したタブレット端末展示もあります。また,足跡化石の3-Dモデルを基にした動画を「横須賀市博ムービーチャンネル」で公開していますので,ぜひご覧ください。
(地球科学担当:柴田)
足跡化石コレクション~恐竜・ナウマンゾウ~
もっと詳しく知りたい方は
柴田健一郎・松川正樹・マーチン G. ロックレイ・ アンドリュー R. C. ミルナー 2021. SfM多視点ステレオフォトグラメトリーによる 恐竜足跡化石の三次元的な記録. 横須賀市博研報 (自然), (68): 1-13.「学芸員自然と歴史のたより」はメールマガジンでも配信しています。