「くずし字」を学ぶ【学芸員自然と歴史のたより】

2021.10.28

 「くずし字」とは、主に江戸時代以前の日本で使われてきたミミズの這(は)ったような文字のことです。当館でも、展示を通して「古文書」(一般に和紙に墨書されたおおむね100年以上を経過した古い文書)に記されたくずし字を「見る」ことが出来ます。しかし、多くの来館者の方にとってくずし字を「読み解く」ことは簡単ではないと思います。

 現在、日本でくずし字を読みこなせる人の数は人口の0.01%程度(数千人程度)という試算があるそうです。こうした背景には、明治時代以降において文字を崩して書かない「楷書」(かいしょ)が一般的な書体となったため、学校教育でくずし字を教えなくなったことなどが挙げられます。その結果として、ほとんどの日本人がくずし字を読み書きすることができなくなりました。しかしながら、江戸時代以前の記録は基本的にはくずし字で記されているため、日本という国や自らを育んだ地域、家の歴史を学ぼうとする場合、どうしてもくずし字の読解能力は欠くことができません。とくに中高生など地元の若い世代への継承が課題だと思っています(ぜひ博物館へ学びにきてください)。

 では、「くずし字」はどのようにして学べば良いのでしょうか。まず、くずし字を活字に直すことを「翻刻」(ほんこく)といいます。翻刻は多くの時間と労力を要するうえに、かなり地味な作業です。もちろん、他人の書いた字ですから、時折読めない字もあります。ですので、まずは完璧に全ての文字をわかろうとせずに、楽しく、気長に取り組むつもりで学習に臨む姿勢が大切だと思っています。そして、翻刻に慣れてきたら、文字だけを読むのではなく、その文書が作成された歴史的背景や意義、歴史全体での位置づけなどを行間から読み解く力を身につける必要があります。

 さっそく「くずし字」の学習を始めるにあたって、最低限必要なものがあります。それは、「くずし字の辞典」です。特に江戸時代のくずし字は「御家流」(おいえりゅう)という統一された書体で記されており、私たちが文字を活字で習ったように、昔の人はまずくずし字の「形」を習います。つまり、いい加減に文字を崩しているわけではないために、辞典が存在するのです。私の個人的なオススメは林英夫監修『増訂 近世古文書解読字典』(柏書房)あるいは児玉幸多編『くずし字用例辞典』(東京堂出版)です。理由は、部首・音訓索引やくずしの種類、用例が充実しているからです。次にテキストについてです。古文書はすでに100年以上が経過した世界に一つだけの貴重な記録であるため、実物に触れる機会はほとんどないかと思います。そこで、テキストは書店で販売している古文書学習のための書籍やインターネット公開している古文書の画像を使用するのがオススメです。

 では、具体的にどのように学習すればよいのでしょうか。あくまでも一例ですが、私の行った学習方法をご紹介したいと思います。まず、何も見ずにテキストを読み解き、別紙に解答を書きつけます。そして、書きつけた解答の答え合わせをして、間違えた字のくずし方を全てくずし字辞典で調べます。そのうえで、別途用意していた単語帳に「間違えた字のくずし」と「活字」を書きつけ、次に出てきた時に間違えないようにします。このようにして語彙を増やしていきます。その後、時間を空けて同じテキストに取り組み、前回と同様に答え合わせをする、間違えた字は単語帳に書きつける、ということの繰り返しをします。とにかく復習が大切だと思っています。ちなみに、近年AI(人工知能)による「くずし字翻刻学習システム」が話題となっていますが、結局はAIによる解答の正誤を判断すること、解答の意味や歴史的な位置づけを考えること、には専門的な知識を持つ人材(指導者)が欠かせないようです。

 くずし字の学習をしていくなかで、読めなかった文字が一瞬のひらめきで読めた時の楽しさは格別です。辞書を片手に「くずし字読解」にチャレンジしてみては如何(いかが)でしょうか。(文献史学担当:藤井)

 

くずし字で書かれたペリー来航に関する記録

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