黒潮にのってたどり着いた植物たち【学芸員自然と歴史のたより】
2022.08.02
現在、博物館では特別展示「黒潮のめぐみ ―海流が運んだ生き物と文化―」が開催されています。展示の中では、黒潮に乗って横須賀・三浦半島にたどり着いた植物も紹介されています。「横須賀市の花」であるハマオモト(ハマユウ)もそのひとつです。ハマオモトの種子は、表面がコルク質、内側が海綿状になっていて海水によく浮くつくりになっています。博物館付属天神島臨海自然教育園(以下、天神島)のハマオモトは、北限に自生することから神奈川県の天然記念物に指定されています。
天神島に咲くハマオモト
ハマオモトの種子
天神島のハマボウも北限かつ神奈川県唯一の自生地として知られています(近年、川崎市や三浦市でも自生が確認されました)。ハマボウも種子も海水に浮きやすい性質をもつ、海流分散植物です。
天神島のハマボウ
ハマボウの果実と種子
国内では四国、九州南部、琉球、小笠原諸島に分布するグンバイヒルガオも三浦半島への漂着が確認されています。冬を越すことはできないため定着はしませんが、夏の砂浜では、漂着した種子から発芽したと思われる株が見られます。
自生地のグンバイヒルガオ
三浦半島に漂着したグンバイヒルガオの標本
このほかにも、三浦半島の海岸では、ココヤシやモダマなど南方に生育する植物の種子や果実が見つかります。当博物館では確認していませんが、他の地域では漂着種子の発芽が観察された例もあるようです。
漂着した種子や果実(ココヤシ、モダマ、ゴバンノアシ、モモタマナ)
海流分散植物は、長い海の旅の末に打ち上げられた新天地で発芽し、分布を広げてきました。三浦半島の海岸の植物を楽しむ際には、そのルーツにも思いを巡らせてみてはいかがしょうか。(植物学担当:山本)
◆特別展示「黒潮のめぐみ ―海流が運んだ生き物と文化―」は2023年1月9日(月・祝)まで ◆三浦半島に漂着した果実・種子(ココヤシ、モダマ、ゴバンノアシ、モモタマナ)は博物館本館「さわれる展示コーナー」に常設展示 参考 布施静香2015ヒガンバナ科『日本の野生植物1』平凡社pp.240-245 神奈川県植物誌調査会編2018『神奈川県植物誌2018』神奈川県植物誌調査会 神奈川県環境農政局緑政部自然環境保全課・神奈川県立生命の星・地球博物館編2022『神奈川県レッドデータブック2022植物編』神奈川県 「学芸員自然と歴史のたより」はメールマガジンでも配信しています。