海の青い龍・アオミノウミウシ【学芸員自然と歴史のたより】
令和5(2023)年の春から初夏にかけて、三浦半島の相模湾沿岸にたくさんのカツオノカンムリというクラゲが漂着しました。このクラゲは強い毒を持つことで知られるカツオノエボシに近縁で、「群体性ヒドロクラゲ」と呼ばれる一群です。生活の仕方もカツオノエボシに似ていて、水に潜ることはなく、ふだんは外洋の海面にヨットの「帆」のような部分に風を受けて漂い、海流に乗って運ばれます。しかし、沖から岸に向かう強い風が吹くと、沿岸に吹き寄せられ、まれに海岸に打ちあげられることがあります。
カツオノカンムリ
このとき、カツオノカンムリと一緒に海岸にやってきたのが英語名で「ブルードラゴン=青い龍」と呼ばれるアオミノウミウシでした。当博物館の付属天神島臨海自然教育園でも、5月初旬~中旬にかけて何度かアオミノウミウシの漂着が確認され、来園者からも注目されました。
アオミノウミウシ
アオミノウミウシは体長4 cmほどになるミノウミウシのなかまで、体内に空気をためて仰向けに浮きながら、有毒な刺す細胞「刺胞」をもった、カツオノエボシ、カツオノカンムリ、ギンカクラゲなどを捕食しています。さらに、アオミノウミウシは食べたクラゲの刺胞を体内に取り込む「盗刺胞」と呼ばれる行動をすることで知られ、外敵に襲われるとその刺胞で身を守ります。そのため、アオミノウミウシに安易にふれると、クラゲに刺されたときと同様の痛みを感じることがあり、危険です。
アオミノウミウシは、その一生を餌となるクラゲとともに外洋を漂う生活を送っていて、その姿はなかなか目にする機会がありません。博物館としては、2024年の干支・辰年の前年に「青い龍」が姿を見せてくれたことが、干支に関連した話題や展示を行う上で、よい素材提供となりました。(海洋生物学担当:萩原)
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